安倍政権の「教育再生」で子どもと学校はどうなる (石山 久男)

1.この間の全体の流れ

 2012.10.下旬 自民党「教育再生実行本部」が安倍総裁直属組織として発足

  本部長 下村博文(現在は遠藤利明)

  5分科会 基本政策(座長・遠藤利明) いじめ問題対策(同・馳 浩) 

    教科書検定・採択改革(同・松野博一) 大学教育の強化(同・山谷えり子)

    教育委員会制度改革(同・義家弘介)

 2012.10.24. 本部・分科会の会合はじまる

 2012.10.31. 「教育関連法の改正案(義家議員試案)全体イメージ〔未定稿〕」作成

         11/13の教育委員会制度改革分科会の資料として配布

 2012.11.16. 自民党「教育再生実行本部」中間まとめを発表

       自民党の総選挙重点政策2012、政権公約Jファイルに反映

2012.12.16.  総選挙 年末に安倍内閣成立

 2013.1.24. 首相官邸に「教育再生実行会議」設置

       第1回会議(いじめ・体罰問題)

 2013.2.15.  教育再生実行会議 第2回会議(いじめ問題提言内容をまとめる)

 2013.2.26.  教育再生実行会議 第3回会議

 (いじめ問題第1次提言を安倍首相に提出、教育委員会制度改革の議論に入る)

 2013.3.22. 教育再生実行会議 第4回会議(教育委員会制度改革の議論を継続)

 2013.4.4.   教育再生実行会議 第5回会議(教育委員会制度改革の素案を提示し議論、案をまとめる)

 2013.4.15.  教育再生実行会議 第6回会議予定(教育委員会制度改革の提言を首相に提出予定)

 

 

2.新自由主義的改革=すべての子どもの教育への権利保障という憲法原則の否定

a.教育制度の多様化と競争

画一的な教育制度から柔軟な教育システムへ

  6・3・3・4制の見直し、区切りの柔軟化

  5歳児教育義務化

飛び級制度導入

b.学力競争と教育の不平等化、子どもの階層分化と分断

小・中・高卒業時の学力評価、達成度試験

全国一斉学力テストの悉皆化

c.すべての子どもへの教育への権利保障の放棄

高校授業料無償化に所得制限導入

d.大資本の利益のための国際競争力強化とその一環としての軍需産業の強化

科学技術イノベーションの推進

宇宙科学研究開発機構理事長・理事に「国家観をもった人員を配置、安全保障と密接に連携」

 

 

3.国家主義の教育① 教科書を変えて憲法違反の戦争肯定の教育を推進

 a.村山談話・河野談話の見直し

  検定基準の近隣諸国条項の廃止

 b.検定制度の大改悪 教育内容への究極の政治介入 事実上の国定教科書へ

学習指導要領の詳細化 「学習指導要領は大綱的基準である限り合憲合法」という最高裁学テ判決に違反

  検定基準の詳細化 

 共通に記載すべき事柄を文科大臣が指定できる

  複数の説があるときは多数説、少数説を明記させる  政府見解、最高裁判例は多数説である

  数値について複数説がある場合は根拠を明記させる

  検定審議会委員(教科書調査官も?)を国会同意人事とする

  検定の経過、決定内容を国会審議事項にする

*詳細な指導要領と検定基準によって、どの教科書も同じような内容を書かされることになります。さらに、政府見解を書き込むことが強制され、教科書は事実上「国定教科書」と同じようなものになってしまうでしょう。そうなると、教科書は無味乾燥なものになり、子どもたちが興味をもって学ぶことができなくなるでしょう。また、子どもの考え方が戦前のように一つの鋳型にはめこまれるようになってしまいます。実は2008年の指導要領実施以後、すべての教科の教科書に道徳の教材を盛り込まなければならないことになっていますが、そうしたことも、子どもを鋳型にはめることを促進するでしょう。そのために、悪評高い『心のノート』を再び全員に配布することにしました。

 

 

4.国家主義の教育② 愛国心を押しつける道徳教育の強化

a.愛国心と規範意識の教育を重視

道徳を教科に

  「心のノート」の配布を復活

b.上からの管理強化による「いじめ対策」

「いじめ」がおきないような学校の環境づくりは無視 少人数学級の拡大は中止 競争を促進

「いじめ防止対策基本法」制定と「いじめ防止条例」の制定義務化

   教職員の研修強化

  学校と教職員の対応を教委が評価

いじめ発生時の対応策をルール化

道徳教育を教科に

加害生徒の懲戒、出席停止処分と警察への通報・連携

「道徳」の内容とされていることは、愛国心や国旗・国歌を愛するなど、国家に対する意識が中心におかれていることです。一人ひとりの国民の国家に対する意識はさまざまに違うはずですし、その違いが認められるのが民主主義の社会であるはずです。しかしこの選挙公約は、国・国旗・国歌を愛するのは当然という前提に立っています。これがそのまま「道徳」の内容にもちこまれると、国・国旗・国歌を愛することについての議論ぬきに、政権支配者の考え方が子どもたちみんなに押しつけられることになります。

  もう一つの問題は、このような「道徳」に関する教育はどのような形で行われるべきなのかという問題です。選挙公約にはそのことについて何も書かれていません。ということは、ここでいう愛国心や規範意識については、すでにある内容が決まっていて、それについての議論を許さず、それを上から教えこむのが道徳教育なのだということを暗黙の前提にしているのではないでしょうか。けれども道徳意識というのは一人ひとりの育ち方によっても多様です。教育はそういう多様な子どもたちの意識に向き合い、話しかけあい、考えあっていくなかで育つものではないでしょうか。上からある考え方を教えこむことで本当の意味での道徳意識が育つとは思えません。

  道徳教育についてのそうした根本的問題について、おそらくなんの議論もないまま、教育再生実行会議では、さっそく「道徳」を教科の一つにすることを決めました。

 

5.教育内容と教育制度を変えるために学校と教職員の統制を徹底

憲法にもとづく教育の政治からの独立、地方分権という戦後教育の根幹を否定

a.地方教育行政制度の大改変

 教育行政の執行機関を[教育委員会]から[首長―教育長]体制に変える

首長が任命する教育長を教育委員会の責任者とする(教育長は議会同意人事)

  教育委員は教育長の諮問機関とする

 文科大臣の地方教委への指示の要件を緩和する 教科書採択でも市町村教委へ指示できる

b.教員免許制度の改悪

大学の教職課程修了者には准免許状公布 一定期間(3年以上)実務経験後、試験および適性確認制度に合格後に本免許を教育長(雇用主)が交付、採用後3年ごとに勤務実績を報告する義務

それによって分限免職、教員免許失効も可能に

c.上意下達の学校体制づくり

  都道府県および政令市に教職員人事委員会を設置(首長が議会の同意を得て委員を任命)

教育長は教職員人事委員会に、教員が「教育公務員としての責務を果たしているか」(学習指導要領を順守しているかなど)等勤務実績について諮問、その答申にもとづき教育長は、教員の適性を確認し、分限免職に値するかどうか等を判断する責務を負う

勤務成績評定実施とそれにもとづく処遇の実施について校長・教育長の責務を規定

主幹教諭および主任を必置とする 各職階の役割と責務を規定

  教育公務員倫理規程を制定

d.政治的行為・政治教育の禁止

政治的行為の制限と刑事罰(3年以下の懲役または100万円以下の罰金)の規定をもうける

政治的目的をもって政治教育をしてはならないと規定したいようだが、政治的目的をもったかどうかは内心の問題であいまい。結局、政治教育の萎縮、事実上の禁止をもたらすもの

e.教職員組合の統制

教職員組合の収支報告の義務付け

「違法」活動団体は人事委員会登録団体(一定の範囲で当局との団体交渉が認められる団体)から除外

f.大学の統制の強化 

 9月入学促進と4~8月を利用した自衛隊も含む体験活動必修化

   大学評価にもとづく資金の重点配分

学長のリーダーシップの抜本的強化

*これらは、教職員の対等な協力関係をつくるのではなく、よい勤務評定を得るための競争関係に追いやります。教員のなかの上下関係を確立し、常に上からの指示・方針に従う教員だけで学校を固めようというのです。これでは、少しのはみ出しも認めない兵営のような学校になってしまうのではないでしょうか。個性あふれる先生の授業に目を開かされたり、子どもの話をよく聞いてくれる先生が大勢いるような楽しく発展性のある学校は姿を消してしまいます。その最大の被害者は子どもたちです。

  教育公務員の政治活動や政治的教育に3年以下の懲役や100万円以下の罰金という刑事罰をもってのぞもうとするのも、適用の対象が不明確で、結局、教職員の自主的活動や自由な研修と教育活動を萎縮させ、上からいわれた通りの教育しかできないことになります。

 

 

6.安倍「教育再生」のねらい 国家教育権の確立から戦争する国づくりのための改憲へ

 戦後の教育運動のなかでつくりあげられてきた憲法26条の教育権の理念の全面否定

 旭川学力テスト事件の最高裁判決にも反する

  「国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有する」「子どもの教育は、教育を施す者の支配的権能ではなく、何よりもまず、子どもの学習をする権利に対応し、その充足をはかりうる立場にある者の責務に属する」「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法26条、13条の規定上からも許されない」

 憲法26条の実質改憲というべきもの

 国家に教育の権限を集中させて戦争する国に忠実に従い奉仕する人づくりをねらう

 子どもの成長発達のための教育から改憲と改憲された国家のための教育に変える

 

 

7.教育でも「地域主権改革」がさかんだが、これは危ない

「地域主権」とは「規制緩和」と地域の「自己責任」、国の責任放棄

  なぜ国の責任を放棄するのか 教育と福祉には金を使わない 

 教職員の賃金制度の改変で差別的制度を導入し教職員の統制に利用

 自治体行政による教育目標=教育内容と教育制度・体系の自由な策定

 安倍「教育再生」と結合してさらなる危険性の増幅

 

 

8.私たちの対案と活動

 《基本》

国家のための国家主導の教育ではなく、子どものための子どもの権利としての教育を基本に

 

 《ゆとりあるのびのびした学校に》

少人数学級の実現でゆとりある学校に

 教職員の創意が発揮できる自由でのびのびした学校に

 子どもと教職員がゆっくりふれあえる学校に

 不必要な競争をなくし、子どもどうしがつながりあえる学校に

いじめ対策は、ゆとりある学校づくりから

道徳教育は国が決めた規範の押しつけではなく、子どもの生活に根ざしたものに

上意下達の学校組織、職階や勤務成績評価で教職員が分断孤立させられ、上からの指示だけで動くような学校ではなく、自由闊達に対等に経験交流や情報の共有、学びあいのできる学校に

真実を自由に教えられる学校に

《すべての子どもの学ぶ権利が保障される学校に》

誰もが平等に学べる学校に

生活が苦しい家庭の子どもにはゆきとどいた支援を

高校・大学の学費は無償に

《教員の自主的研修が授業に生かされる学校に》

教員の資質向上のためにも、教員の職場や研究会などでの自主的な研修を保障する

教職員の自主的な研修や創意工夫された授業づくりを保障する

学習指導要領はあくまでも大綱的基準に

検定制度の廃止をめざし教育内容への政治の介入をやめさせる

検定の強化で歴史の真実をゆがめることは許されない

《教員の市民的活動や教職員組合活動の自由を保障する》

自主的な市民的活動・教職員組合活動を萎縮させる処罰・懲戒処分は行なわない

《教員養成制度を改善し力量のある自立した教員がうまれるようにする》

教員養成は教員としての専門性が深められる制度に

教員免許の開放性を守る

勤務成績の評価で教員免許が剥奪されるような制度ではなく、免許更新制も廃止する。

《民主的で住民にも教職員にも開かれた教育行政を》

教育行政はあくまでも政治から独立させる

教育委員会を子ども・保護者・教職員・地域住民の声がとどく組織につくりかえて活性化を

 

対案の実現をめざして、教育基本法改悪反対闘争を上回る大きな幅広い運動を

 

13_4_19_杉並みんなの会 安倍教育再生批判.doc
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