与党「いじめ防止対策推進法案」の重大な問題点

2013/6/11  コメント  俵 義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)


 517日に与党が国会に提出した「いじめ防止法案」によってはいじめの防止も解決もできないと思う。

この法案のもとになったのは自民党の教育再生実行本部の「中間取りまとめ」、教育再生実行会議の「第一次提言」であるが、この両者にはいじめの原因や背景の分析がない。もともと、いじめをはじめ、学校の「荒れ」、不登校、引きこもり、自死など子ども・教育・学校の深刻で重大な問題をつくり出してきたのは長年の自民党政権である。長年の自民党の競争教育を中心とした政策によって、子どもたちは極度のストレスに見舞われている。国連・子どもの権利委員会はこの問題を早急に解決するように何回も勧告を行っているが、日本政府は無視し続けている。法案は、こうした原因・背景を明らかにして、原因を取り除いていじめを解決するのではない。


 いじめには、①いじめる子、②観衆・聴衆(面白がる、はやし立てる)、③傍観者(見て見ないふりをする)、④いじめられる子、という「いじめの四層構造」があり、しかもその内部(子ども)がたえず入れ替わることなどが明らかにされているが、この法案はそうした視点はなく、子どもをいじめる子といじめられる子に二項対立的に捉え、いじめる子には「指導」、いじめられる子には「支援」という、これまた二項対立的な対策が強調され、次のような対策を法律で定めようとしている。


 法案は、道徳教育の強化や規範意識の養成を義務づけている。さらに、ゼロトレランスによる厳罰主義による対策が中心である。いじめは、道徳教育や規範意識によって解決できるほど単純ではなく、複雑で多様な問題を含んでいる。文科省の道徳教育推進校の大津市皇子山中学校で「いじめ自殺」が起こったことがそれを示している。それだけではなく、この法案の内容が実行されれば、いじめはもっと陰に隠れたものになり、学校は密告社会になり、子どもたちは今以上に分断され、警察を介入させることによって、いじめ加害者とされた子どもは「犯罪者」の烙印を押され、幼い時から一生立ち直れない状況に追い込まれる。

さらには、家庭にまで管理統制をおよぼし、家庭に国などへの協力を強制されることになる。


 いじめ問題は法律や条例をつくって解決できるものではない。法案に盛り込まれている対策はすでに多くは実行されているものであり、わざわざ法律をつくる意図は前述のように別のところにあると思う。法案は教育現場を知らない者たちがつくった質の悪い「作文」であり、絶対に成立さてはならないものである。


 こんな法律をつくるより、国連・子どもの権利委員会の何回もの勧告を受け入れ、子どもが権利主体であることを認め、子どもの人権を大切にすること、正規教員を大幅に増やして教員の多忙状況を解消し、教員が一人ひとりの子どもと向き合える条件を整えることなどの施策こそが重要なのである。